
2005年07月01日
なんと素晴らしきことかな
京都のある日本料理店に伝わる、
ちょっと不可解な家訓があります。
「毎日味噌汁」
現在の主人が今は亡き先代の下(もと)に弟子入りした
まだ若き日のことでした。
来る日も来る日も、
先代の主人は何も言ってはくれないのです。
ただ一言、
「毎朝定刻に、炊きたてのご飯と漬け物、
そして作りたてのわかめの味噌汁を
私の部屋まで持ってくるように。」
毎朝6時30分になると、約束どおりに
彼は先代の部屋まで持っていきます。
先代は一言も言葉を発しない。
ただ黙々と弟子の作った朝食を食すだけ。
弟子もまた、先代の後ろに、ただ控えているだけ。
花咲く春の日も
ときには嵐の日も
降りしきる雨の日も
うだるような夏の日も
紅葉が舞い落ちる晩秋の日も
雪が降りしきる凍てつくような日も
そして、新年の日々でさえも・・・
繰り返されるのは、寸分と違(たが)わない朝のなりわい。
彼が先代からやっと教わることができたその日は、
味噌汁を作り始めてちょうど1年目のことでした。
おそらくは最も単純で基礎的な部類に入る
わかめの味噌汁を通して先代が伝えたかったのは、
いつどのようなときでさえも
変わらぬものを作ることの難しさと奥の深さでした。
ただ黙して食する先代が観ていたのは、
1年という歳月の流れの中で日々精進し成長しつづける弟子の、
まさに心のありようだったのです。
同じ機嫌で風車を回せば、商売はおもしろくなる。
理屈は単純です。
でも、あまりに単純であるがゆえに、
そう易々とできることではないのです。
なるほど、商売は、目先に儲け話があると
その方がおもしろいし、儲かれば機嫌もよくなります。
でも、そのようなことは当たり前であり、
むしろ、そのようなうまい話が舞い降りてくる日は
数えるくらいしかないのです。
それよりも、来る日も来る日も先が見えず、
機嫌も悪くなることの方が多いかもしれない昨今だからこそ、
同じ機嫌で風車を回すことの難しさを痛感させられます。
「毎日味噌汁」。
同じ機嫌で同じ味を作り続けることの
なんと素晴らしきことかな。
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