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有限会社エー・エム・アイ
栩野 正喜
2004年9月30日
食したあとの箸の置き方にご用心を
ある日曜日の1コマです。
定期考査前でもない限り、日曜日は大抵はヒマです。
天候がよくてその気になったら、龍神(りゅうじん)村や十津川(とつかわ)村までクルマを走らせて
「ミニ温泉ツアー」をするのですが、そうでもない限り、午後4時頃までは取り留めもなく過ごし、
それからは行きつけのスーパー銭湯へ行きます。
そのあとは、おきまりのコースとはいえ、クルマを運転するのが大好きな私なので、
少しだけドライブ気分を味わえる距離にある中華料理店で舌鼓を打って帰宅します。
私には食に対して一風変わった(?)こだわりがあるのです。
それは、食事を済ませた直後のテーブルです。
食する前や食しているときは、皆さんそれぞれがご家庭で行き届いた躾(しつけ)を
お受けになっているでしょうから、何らこだわることではありません。
しかし、問題はそのあとなのです。
たまたま入った店がとても混雑していて、人員がその状況に対してはるかに足りず、
「すみません。すぐに片づけます。」
という店員の声を背にしながら、私がここへ来て座る直前にいた人の食したあとがテーブルの上に
そのままにされていることも間々あるものです。
食べ物というのは摩訶不思議なところがあって、
おいしそうに皿に盛られた「料理」と名のつくときの食べ物のなんと美しいことでしょう。
対して、これが食されたあとの皿が並ぶ光景のなんと異なって見えることでしょうか。
ましてや、他人様が食したあとの皿がテーブル上でそのままにされていて、
店員の声を背に座った席でその光景を目の当たりにしたときに受ける感覚と、
それに対する感情にはなんとも言い難いものがあります。
さて、例の中華料理店でのことでした。
時刻は午後9時半ごろでしたでしょうか。
ずいぶん混雑していました。
案内された席のテーブルには、直前まで人がいて食していた形跡はありませんでしたが、
両側のテーブルには、食されたあとの皿の群れが、所狭しと並べられたままになっていました。
私が申し上げた「こだわり」はこの光景にあるのですが、
その中でもとりわけ気になって仕方のないことがあるのです。
それは、箸の置き方です。
食したあとは、きちっとそろえて皿の上の自分に最も近いところに置くか、箸袋があれば、
きちっとそろえてそれに納め、やはり自分に最も近いところに置くくらいのことはしても当然だと思うのです。
もっとも、私も不躾(ぶしつけ)ですので、偉そうなことは申し上げられないのですが。
さて、そのような私の至らない目で見ても、両側の皿の群れの上の箸に対して判定させていただけるならば、
全部、不合格です。
なぜなら、そろえられずして皿の真ん中に放り出すように置かれている箸からは、
「ありがとう」という感謝の意はまったく感じられないからです。
自分が注文して作ってもらった料理は、余程何らかの理由でもない限りは全部食するのが、
作ってくれた人に対する客としての最低の礼儀作法です。
でも、それだけでは無礼です。食したあとの箸をどのように置くか、
この置き方ひとつでその店にはどのような層の客が来ているのかが分かってしまうし、
例えば、どなたかとお食事をご一緒した際には、その方もさることながら、
自分もふくめて、赤裸々に人間性が現れるのです。
ですから、作ってくれた人、あるいは料理を自分の席まで運んできてくれた人が見たときに、
その人たちを空しくさせたり、悲しませるような置き方はしたくないもので、
たとえ店の人がそのようなことまで感じ考えたこともなく、もっと割りきっているかもしれないとしても、
それでもそこまできっちりとしてこそ、初めて客としての礼儀を尽くしたことになるのではないかという、
私なりのこだわりがあるのです。
毎年桜の季節になると、私は大阪帝国ホテルに赴きます。
ところは桜宮。その地名の通り、見事な桜がホテル1階の喫茶コーナーから一望することができます。
ですから、ここは、私の大のお気に入りの空間なのです。
私はどの喫茶店や料理店に入っても、可能であればカウンター席を希望します。
なぜか?答えは簡単です。
カウンター席は、その店や店員と最も近い距離にある席だからです。
そこに座ることで、その店が一流であろうとなかろうと、
少なからず店内の現実が見え隠れしているのが分かるものです。
あるファミリーレストランでは、客が食した後もそのままに洗われていない皿をストックするための棚が見えることもあり、
もっとひどい店になると、割り箸やその他のさまざまなゴミがポリバケツに山のごとく盛り上げられていることもあります。
帝国ホテルに赴いていつも驚かされることは、
この「現実」を徹して客に見せないようにしていることです。
例えば、サンドウィッチはカウンター奥の小さなスペースで作られ、
皿に盛りつけられるのですが、その際にキュウリの皮が丁寧にむかれていく様を見ることができます。
でも、そのむかれた皮が、調理人の下に置かれているゴミ箱にそのまま投入されていることは推測されても、
調理人自身が目隠しの役目に徹しながら作業をしているので、
絶対にその「現実」が客の目に触れることのないまま、
ついには、調理終了後と同時に、そのボックスは、
垂らされている純白のクロスの奥へと入れられてしまいます。
更に、客が食したあとの皿は、アルミ製のワゴンに入れられ、
扉の向こう側の厨房へと、音もなく運ばれていきます。
もちろん、ワゴンの上にも純白のクロスがほどこされていて、
ワゴンの中の「現実」を客が見ることはないのです。
混雑する中華料理店では、お若い店員さんが、客のわがままな注文を聞き、
あるいは注文された料理を各テーブルにまで運ぶなど、厨房と客席の往復を何度も強いられながら、
その隙間を縫うようにして食されたあとの皿を懸命に片づけていました。
ただし、この店ではそれらの皿の群れは客から丸見えです。
この「現実」を上手に客に悟られぬようにすることができるようになれば、
客の箸を置く形も変わり、
合格点に達する層の客が来るようになるのではないかと思われてなりません。
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